サイトアイコン Junichi Shindoh, MD, PhD

「伝える」技術

自分が外科医としての自分に課している仕事は大きく分けて3つある。
一つは目の前の患者さんに最高の外科医療を提供すること。二つ目は次の医療の方向性を形づくり、世界を教育し、より多くの患者さんを救うこと。そして三つ目は外科医を育てることである。
これは決して特殊なことではない。程度の差こそあれ多くの医師が何らかの形で関わり、日々やっていることである。

人間にとって「伝える」技術は、どの世界で生きていようと求められる。我々の業界であれば、臨床での教育、患者さんへの説明、学会でのプレゼンテーション、論文執筆 等々、、、

今回の外科学会のランチョンセミナーもそこそこ反響があった。何人視聴してくれただろうか。私はプレゼンテーションはどちらかというと苦手である。ディスカッションやディベートは技術で何とかなるとしても、決められた時間で伝えたいことを100%伝え切るのは難しい。特に私の場合は他人のデータの評論ではなく、自分たちのデータをもとに独自の視点で話をするので、概念を分かりやすく解説し、「なるほど」と感じてもらうためには大きな大きな努力が必要である。
こうした大きな学会の場で講演させてもらえる医者の中には、天性の才能と思えるような素晴らしいプレゼンテーションをする人も沢山いるが、自分は全くそうではない。

今年はコロナの影響ですべての学術集会が延期、誌上開催、Web開催となっている。8月に入って延期されていた講演がwebで毎週のように入ってくるが、自分としては今ものすごく違和感とストレスを感じている。プレゼンテーションの相手が見えないからである。

私がとても大切にしていることが1つある。
それは「聞き手の心に残るか否か」ということ。

聞き手にどう映るかを何度も何度もイメージしながら、話したいことを組み立てる。スライドも直前まで入れ替わる。これまで何百と講演をしてきてもそれは変わらない。後輩にはラブレターと一緒だと指導する。一番伝えたい相手に一番伝えたいことが伝わらなければ、プレゼンテーションは全く意味がない。

聞き手の立場でどう映るか、どう聞こえるか、第3者の立場を想像しながら何をどういうニュアンスで話そうか、いつもイメージを繰り返している。しかし、実際にオーディエンスが目の前にいない状況では、レスポンスが分からない。軌道修正もできない。そして自分はかくも多くのnon-verbalな表現を利用してプレゼンテーションをしていることに気づく。文字と声だけでどこまで伝えられるか、web講演は通常の講演とは全く異なっている。

臨床の場においてこれを考えてみる。患者さんへの術前説明、話しづらい結果を伝える場合、毎日の回診など、そこで自分が伝えたいことは、医師の視点からみた病気のことではない。患者さんが求めていることは、良くなる可能性、QOLの維持、今後の見込み、そしてたとえ悪くても希望を持てる視点である。電話では伝わらない。医療者と患者サイドの関係の構築の肝はそこにあると思う。

物事の伝え方のスタイルは医者それぞれではあるが、自分が逆の立場だったらどう思うだろう、どう感じるだろう。伝え方、言葉の選び方、表情、、、どれも重要だと下には話をしている。high volume centerの外科医たるもの手術は一流で当然。プラスアルファがあるならば患者さんと主治医が真剣に向き合えるかどうかだと自分は思っている。そういう外科医が沢山育ってくれることを願う。

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