サイトアイコン Junichi Shindoh, MD, PhD

Marginal Resectability

がんの手術の考え方には、「取れる」「取れない」という技術的な側面と「取ってもよい」「取らない方がよい」という腫瘍学的側面の2つの視点がある。

血液のがんのように化学療法で寛解を目指すがんや、早期の乳癌のように放射線などで根治を期待できるような癌腫。あるいは胃がんや大腸がんも粘膜にとどまるような早期がんであれば内視鏡で切除してくることもできる。肝癌も小さいものはラジオ波で焼いてしまうという治療も確立している。しかし、様々な治療法が発達した現在においても、多くのがんでは外科的に切除できなければ根治は不可能である。

特定の食事や習慣でがんが治るというのは100%ウソであるし、自費診療でプラスアルファはない。一方で手術の意義というのも様々である。外科医の視点での「取れる」「取れない」は必ずしも患者の視点で見た時の「治る」「治らない」とは等価ではない。

スーパードクターや神の手などいませんよと色々な講演で話をしてきた。それは特定の外科医が手術するから治る治らないという違いはほぼありませんよという意味である。しかし一方で、外科医ごとに診療のポリシーや経験は異なるので、誰に出会うかによって運命が大きく変わることもある。有名病院の中にも様々なDrがいるし、同じ施設でも医師によって治療方針が異なったりする。

外科医の多くは、手術によってがんが「治る」ことを期待して治療を行う。すなわち、「取れる」が「治る」に近い患者を選んで手術する。「選んで」という言葉を使うと、命の選択のようで少々聞こえが悪い。しかしそれは誤りである。手術は侵襲的治療であり、局所治療である。手術で逆に命を縮めてしまうケースも存在するので、何が最も身体に負担がなく、最終的な生存を伸ばすかどうかという推定に基づき治療を選択していくのががんの治療の世界では一般的だ。「取れる」の中には「取ってもよい」症例と「取るべきでない」症例がある。手術に行くべきケースとは「取れる」かつ「取ってもよい」ケースであり、治療の目的が保証できない手術は避けるということである。

しかし、治療が厳しいと思われるケースでも切除で治癒もしくは長期生存を期待できる症例は一定数存在しているのも事実である。私は肝胆膵外科手術一般を扱うので膵癌の手術もするが、例えば複雑な血行再建を要した6cmの進行膵癌でリンパ節転移もあったケースで術後7年近く無再発の人もいるし、Vp3の肝内胆管癌で治癒に至った人もいる。ただし問題は、そのようなケースにどこまで手術をしてもよいか、どういう条件ならば手術で予後を延ばせる可能性があるか、どういう治療を加えると治癒の可能性が上がるかの判断が難しいという点である。実臨床においてそこには明確な基準はなく、臨床判断や治療選択は外科医の経験に大きく左右される。

私のところにはmarginally resectable(切除適応が微妙で一般的には非切除)と判断されて紹介されてくるケースが多いが、その理由も様々である。例えば技術的に術死のリスクが極めて高いケースや肝臓がほぼ腫瘍で埋め尽くされているようなケース。しかし症例ごとに様々なステップを踏み、一つずつ周術期の課題をクリアできれば安全な治療につなげられる可能性がある。治療の考え方は外科医によっても千差万別。しかし、患者個人の生活や人生に照らし合わせ、身体の状況や本人の意向を鑑み、適切な目標を定めながら最大限のサポートを行う。その手段が手術であろうが化学療法であろうがそれが我々の臨床の神髄である。年末も年明けも厳しいケースはまだまだ続くが、コロナ禍と言われようと、診療は止めず、来年の手術のために治療を開始している患者さんは既に多数いる。ご紹介いただいた先生方の期待に応えるためにも、肝胆膵外科を志望してくれる若い外科医たちを鼓舞しつつ、来年も最後の砦機能は死守していきたいと考えている。

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