サイトアイコン Junichi Shindoh, MD, PhD

初等教育の重要性

医者(になってから)の教育は時代とともに変わっていく。例えば外科医になる人はもともと外科だけの研修であったものを、平成16年に2年間の初期臨床研修を義務付けた新臨床研修制度が始まり、医師免許をとったら誰もが内科、外科、麻酔科・救急、産婦人科、小児科、精神科、地域医療などを必修としてローテーションするようになった。これを終了しないと正規のルートで専門領域に進んだり、診療所を開設したりすることが原則できない。

研修内容について今は少し緩和されているようだが、我々はその一期生であった。国からたまにくるアンケートには、役に立ったのは外科と麻酔・救急くらいで、それ以外の科を回ってよかったと思う点は特にないと毎回答えているが、初期臨床研修の2年間において何科をどのくらい回るということよりも、どこの施設で研修するかということの方がよほど大きな意味を持つと個人的には思っている。

私は研修医2年目から静岡県の焼津市立総合病院に赴任し、研修終了後はそのまま一般外科医のトレーニングを2年間受けた。今でもたまに手伝いに行くことがあるが、首都圏の大病院の研修医と地方の一般病院の研修医を比べると臨床能力には大きな差が存在する。分かりやすく書けば、研修病院として日本でトップの人気を争う虎の門病院の2年生よりも焼津市立病院の1年生の方が知識も臨床能力も圧倒的に上だし、虎の門病院の5年目、6年目のレジデントよりも、焼津の3年目、4年目の外科医の方が手術は各段に上手い。虎の門でしかやらないような超高難度手術をいくつか焼津でも手掛けてきたが、前立ちが3年生、4年生、鉤引きが研修医でも全く問題なく終わるし、術後にトラブルこともない。チーム制で雑用ばかりやらされている大病院の研修医と違って、1年目から戦力として認められているところ、病院が全体として研修医を大切にし皆で育てようという体制が確立しているところが大きいと思う。

かつて自分が焼津で外科医3年目・4年目の時に手術をした消化器癌(胃・大腸・肝臓・膵臓)の生存率を振り返ってみると、5年生存率は74.2%、10年生存率 61.2%。生存期間中央値は15年を超えている。肝臓に関して言えば、5年生存率 60%。同時性多発肝転移症例で14年以上生存というのも2例存在しているし、これは化学療法が現在ほど発達していなかった時代であることを考慮しても、現在の私の大腸癌肝転移の切除成績に近い成績である。焼津の外科は基本的にレジデントが主治医となりほとんどの手術を自分で執刀するスタイルであるが、こうした長期成績のよさは間違いなく指導医の能力の賜物であり、進行癌が多い地域であるにも関わらず後期研修医が執刀してもこの成績をおさめられるというのはやはり驚異的だと思う。焼津の外科はもともとは東京大学第一外科と浜松医科大学第一外科の混成部隊であるが、研修をうけた出身者は現在の日本の外科の各領域で大御所となっている人が多い。焼津は静岡の片田舎にありながら、クオリティの高い外科臨床が行われている隠れた名門研修施設である。

今、私がやっていることは、肝胆膵外科医の指導体制の整備である。過去を振り返ってさまざまな施設や指導医のやり方を参考に、どういうやり方がよいかを模索している。現在は東大からローテーターを受け入れているが、フェロー枠や若手スタッフ枠をもう少しcompetitiveなポジションにしたいと考えている。肝胆膵外科は一般外科、消化器外科のさらに上にある3段目の専門領域なので、実際にトレーニングを開始できるのは卒後10年目前後であり、大学に所属して肝胆膵外科医を名乗っていても40歳前後までほとんど自分で執刀したことがありませんという人が大半である。センター病院でレジデントとして研修しても、執刀機会はそこまで回ってくるわけではない。教育ということを考えれば、やはり自分が大学にポジションを得ることも重要だとは思うが、大学でできてここではできないことも移植以外にはないと思っているし、動きやすさという意味ではここはやりやすい。自分のブランドで人が育ち、それがprestigiousなポジションとして各国から人が集まるような教育体制の整備を現在目指している。

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