学術活動には産みの苦しみがあるが、それを通じて医療を創る作業の一端を担うのは楽しい。
自分が変えたいと思う世界に対して、そのアプローチを考え、仮説を立て、立証する。
我々はそういう世界に生きている。
外科学会で旧知の某大学の教授と久しぶりに会って、10年前にHoustonで連日熱く語った夢にお互いどう近づいたのか。苦難の方が多かったけれども、一歩ずつ一歩ずつ歩みを止めていないことをお互いに確認し、お互いを鼓舞し、そしてまた頑張ろうという気持ちになって東京に帰ってきた。
医学は発見と進歩であるが、医療はデザインと進化であると私は考えている。
講演のスライドもそれを聴いた人が何を捉え、そこから何が変わっていくのか。自分はそういうアプローチでやってきた。昔、期間限定で「仕掛け人」という投稿を掲載したが、自分がやっていることは医療のプロデュースに近くなってきている。もっともその医療の最前線で臨床をやっているのは自分自身であるが、指揮官が本陣で偉そうに座っているより、自分もその一員として機能する。その方が自分には合っていると思っている。
1年後に私がやろうとしていることは、新しい医療モデルを構築することである。
当院の現在の診療体制、強力なポテンシャルをもった横のつながりを軸に、より有機的なつながりをもって、職種の壁を越えて個の力や能力を最大限に生かせる場を作ろうとしている。
医療の生産性が低いのはなぜか
国際競争力が落ちているのはなぜか
医療に地域格差があるのはなぜか
それは人の生かし方を間違えているからである。
物事を生み出し、そこに価値をもたらすものは「人」である。
私はそのために人を育て、その能力を真っ当に評価し、人材を大切にしたいと思う。
私にとってこの8年間はむしろ戦いの歴史であったが、あきらめずにここにたどり着いた。尊敬できる執行部と周囲からの大きなサポートを得て、世の中を変える仕事が始まった。それは自分達だけのためではなく、我が国の医療格差の是正、医療レベルの底上げまで狙った大きなプロジェクトである。
日本はまだ捨てたものじゃない。そういう世界を作りたい。