がんは今や日本人の2人に1人が罹患するありふれた疾患であり、最新の統計では国内で年間約38万人の方ががんでお亡くなりになっています。がんは種類によっては、早期診断・早期治療により治癒や長期生存を得られる方もいらっしゃいますし、近年では手術、放射線、化学療法といったがんの3大治療に加えて様々な治療法の開発も進んでいます。一方、同じ「がん」でもどの臓器に発生するかによってその予後は大きく異なり、甲状腺がん、前立腺がん、乳がんのように比較的長期の生存が期待できるがんもあれば、肺がんや肝臓がん、胆道(胆のう、胆管)がん、膵臓がんのように予後の悪いがんも存在します。
私はこれら肝臓、胆道、膵臓のがんに対する外科治療を専門に扱う外科医です。手術のみならず化学療法、緩和医療を含めて、肝臓・胆道のがんは2000例以上、膵臓がんは500例以上の患者さんの治療に携わってきました。医師として約20年が経過し、多くの患者さんの治療に携わる中で培った知識や、臨床上の考え方を後進に伝える立場になりましたが、それを一般向けにわかりやすく発信していくことも、がん医療の一端を担う自分の大切な仕事の一つと考えています。
今の時代、インターネットで多くの情報を得ることができますが、医療情報の真贋の判断は一般の方には困難です。医師も自分の専門以外の診療に関してはほぼ素人ですから、「医師」という肩書で発せられる情報がすべて正しいわけではありません。また、玉石混交の情報の中から自分が本当に欲しい情報を見つけ出そうとしてもなかなか難しいのも事実です。そこで本書では、患者さんたちからよくいただく質問を参考に、一般の方々が知りたい情報、我々サイドからみてぜひ知っておいてほしい情報についてなるべく系統立てて解説することを目標としました。一般的な本やサイトにあるようながんの診断・治療の総論だけではなく、がんの危険因子とは何か、検診の意義、巷によくある治療法との付き合い方、がんの治療と日常生活、抗がん剤は本当に必要ですか?など、がんになる前から知っておいてほしい情報について、自分が患者であればどう考えるか、自分の家族であればどうするかという私自身の考えをベースに、ある意味セカンドオピニオンに近い情報提供のスタイルを目指しました。
この本を手にされる方は、がんと診断されて暗い気持ちになっているかもしれません。あるいはご家族や身近な人にそういう方がいる方かもしれません。がんの治療の考え方は「正しい」、「正しくない」というクリアカットな世界ではありません。しかし、適切な情報を得てそれを吟味し、適切なタイミングで、適切に利用することができれば、治癒や生活の質の維持といった最大限のアウトカムを得られる可能性は高まります。一人でも多くの方々が本書からヒントを得て、ご自身にとっての最善の選択の一助としていただくこと、誤った情報や偏った考え方に左右されることなく、希望をもって第一歩を踏み出されることを願ってやみません。
医学と看護社 「肝臓・胆のう・膵臓のがんの100の疑問に答えます -がんと向き合うために知っておいてほしい知識と知恵-」 序文より
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