桜花抄

虎の門もなんだかんだ長くなってきたので自分の異動というものはここ何年も経験しておらず、自分の直属の部下も何人も変わってきたし、帰り道に金刀比羅宮に咲く桜を愛でながら自分の日常など大して変わっていないなと何度も思ってきた。東京に長く住んでいると桜はちょうど年度の変わり目に咲く花で、桜を見ていつのまにか4月を迎えたことに気づく。我々の業界にシーズンなどはないので、コロナで歓送迎会などがなくなって時の流れや時節を感じることも少なくなり、なおさらそう思う。

東北の人間にとって桜とは、4月末から5月の連休にかけて咲く花で、子供の頃のイメージでは卒業式や入学式に桜が咲いているということはなかった。卒業式は残雪とともに過ぎ去り、入学式は雪が消えて路面が見えるとやってくる。桜は学校が始まってしばらくすると新学期を祝うようにやってきて、そのやわらかいイメージとともに5月の連休に入る。

桜にはいろいろな種類があるが、自分にとっては母親の実家が近い角館の枝垂桜が原風景に近い。弘前城の花筏とか、小岩井農場の一本桜とか。東北には江戸のソメイヨシノだけではないエモい情景が多い。

今は皇居を走りながら千鳥ヶ淵まで大回りしたり、虎の門病院の周囲にもそこそこ桜の奇麗な場所はあるが、なかなかそういうエモさを実感する機会もなくなってきてしまった。この数週間は命がけの手術が毎日続いていたが、来週から2週間は新年度で手術制限がかかるので、葉桜に変わってしまった桜を眺めながら少し散歩できるかな。

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