私は機械式時計が好きだ。
テンプの鼓動が今そこに流れている時間を見せてくれているようで
大切な場面では必ず身に着けている。
それは何を大切にすべきかという
自分に対する問いかけの意味もある。
モノや空間など、
そこに実体としてあるものは手に入れることができる。
壊れてもまた作り上げることができる。
しかし時間はお金では買えない。
戻ることもない。
時間がもたらすものは豊かさである。
私はそう思う。
人生で与えられる時間は有限であり
人それぞれ違うが
「時間」という不可逆な軸が存在するからこそ
喜怒哀楽があり、変化があり、成長がある。
良い時ばかりではないし
光の見えない時間を長く過ごすこともある。
しかし、過去を振り返ってそれを愛おしく思うのは
過ぎた時間に意味があるからだ。
5年、10年、20年。
思い出せばごく最近に感じるが
長い時間である。
無駄に過ごしてしまったと感じるのか
良かったと思い返せるのか
それは人それぞれである。
しかし、そこに与えられた時間は
それぞれの人生であり、
誰のものでもない。
だから目を前に向けて未来を考えるとき
残される時間が短いと感じると悲しくなる。
外科医の仕事というのは
ただ手術をすることではない。
我々が見ているものは
一人ひとりの人生の時間だ。
手術という「手段」をもって
他人の人生を変える。
形のない、やり直しの効かないものを相手にしているからこそ
崇高な仕事だとそう思う。
自身の人生を足し算ではなく、引き算で見るような歳に差し掛かってくると
時を大切にすることの重要性に気づく。