最近は定位放射線治療のみならず、陽子線、重粒子線などさまざまな放射線治療が選択肢として入ってきました。これらは一定の効果が期待され、例えば心臓が悪くて手術ができない高齢の患者さんや比較的大きめの腫瘍など、何らかの理由で推奨治療が困難なケースに対しては有望な治療法と言えます。
 陽子線や重粒子線は治療を受けている方は楽ですし、腫瘍を壊死に導く効果もある程度期待できますから、先進治療の一環として行われてきました。患者さんの中にもそうした治療を自ら希望される方もいらっしゃいます。ただし、おいしい話ばかりではなく、腫瘍の根治や長期生存という視点で物事をみた場合、考えておかなくてはいけない問題もあります。
 まず、肝細胞癌は根治を企図して治療を行っても肝臓自体ががんを生み出す温床となっているため、新たな癌が発生する可能性が高い癌腫です。手術やRFAなど根治を目的とした治療を行っても再発は高率であるということ、長期生存を目指すためには再発に対して根治性の高い治療を適切に選択することが重要だと先ほど述べました。肝癌の患者さんの中に比較的長期生存されている方が多いのは、再発しても根治性の高い治療を選択肢、繰り返し治療を行うことができるためです。単純に今見えている腫瘍を完全切除したり完全壊死させれば終わりというものではないのです。
 陽子線や重粒子線は確かに効果の高い治療法ですが、治療部位から絶対に再発が起こらないかというとそういうわけではありません。放射線治療の本質は、がんとその周辺を放射線で「焼き尽くす」というものです。RFAも手段は異なりますが、「焼灼」という意味では似ています。問題はこうした部分から再発が起こった場合、もともとがんがあった場所だけではなく、その周囲の正常肝組織や血管まで焼かれてしまっているため、これらの組織を分離することができなくなってしまい、手術をしてくれと言われても技術的な面で切除が不可能なケースが出てくるという点です。
 肝臓の深部で大事な血管を巻き込んで治療が行われてしまっている場合、放射線治療後の瘢痕組織の中から血管だけを残して腫瘍を切除してくるということはできません。場合によっては手術ができなくなります。ラクで効果の高い治療法が夢の治療法かというと決してそういうものではなく、肝細胞癌のように再発が多い特殊な腫瘍の場合、先を考えない治療選択が再発治療の選択肢を奪い、かえって予後を損なうリスクもあることに注意をしなくてはいけません。
 ガイドラインの推奨や治療アルゴリズムにはきちんとした理由があり、新しい治療が従来の治療とくらべすべての点で勝っているわけではありません。ですから内科医だけ、外科医だけ、放射線科医だけの偏った考え方ではなく、いわゆる専門家が集まって個々の患者さんの治療方針を議論するMultidisciplinary Team (MDT)を形成している施設の方が、こうした癌腫の治療においては相対的に有利になります。

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