いわゆる免疫療法のカテゴリーの中で、肝細胞癌に対する効果が科学的に示されているものは、免疫チェックポイント阻害薬を用いた複合免疫療法の一部です。2022年11月現在本邦において保険診療で使用可能なのはアテゾリズマブ(抗PD-L1抗体)+ベバシズマブ(血管新生阻害薬)のみですが、今後、デュルバルマブ(抗PD-L1抗体)+トレメリムマブ(抗CTLA4抗体)療法などいくつかの免疫療法が登場してくる予定です(※2025年1月現在臨床で使用されています)。複合免疫療法のターゲットはがんを攻撃するリンパ球の活性化と、がんが免疫細胞の攻撃から逃げようとする分子機構のブロックです。これはノーベル賞を受賞した免疫チェックポイント阻害に関連する経路をターゲットとした治療の手法です。
 切除不能の進行肝細胞癌に対しては現在アテゾリズマブ+ベバシズマブ療法が第一選択として推奨されていますが、免疫に作用する薬剤に副作用がないわけではなく、免疫関連の特殊な副作用が存在しています。複合免疫療法は従来の抗がん剤治療と比較して少し上乗せ効果がある可能性が示されていますが、残念ながら劇的に予後を改善するほどのものではありません。免疫療法はあくまで全身化学療法の選択肢の一つであって、夢の治療法ではないことに注意が必要です。
 尚、民間の自費診療のクリニックで行われているNK細胞治療やがんワクチン、その他の免疫療法治療について科学的な有効性が証明されているものはありません。また添付文章で規定された用法・用量以外での薬物の投与は、効果や安全性が保証されませんので臨床試験以外では行うべきではありません。

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