がんのステージは進行度を表しますが、早期・末期という一般の人が持つイメージとはずれがあります。Stage Iがすべて早期がんというわけではありませんし、Stage IVも末期がんではありません。Stage IIIを超えたものは定義上すべてStage IVですので、Stage IVの中には手術で治る可能性のある方から根治不能な方までさまざまなケースが混在しています。
ここでは転移が肝臓に限局した場合を考えて解説を行います。大腸癌の肝転移は肝臓に発生するものではなく、すべて大腸の原発巣から飛んできたものですので、理論的にはこれらをすべて根絶できれば癌は治癒します。大腸癌は特殊で、肝臓や肺に転移を来たしても切除による根治が一定の確率で得られる数少ない癌腫です。しかし、肝転移が手術で治るのかどうか、そもそも切除の意義かあるのかどうかは様々な因子に影響を受けます。
我々外科医が手術を検討するのは一定の確率で腫瘍の根治あるいは制御が可能であると考える場合です。1回の切除で治癒せしめることができる可能性のことを、切除の「根治性」といいます。根治性が高いと予想される場合は切除をしてもよいということになりますが、これには明確な基準がなく、切除の適応は主治医の経験や判断によるところが大きい部分です。日本肝胆膵外科学会のプロジェクト研究をはじめ、過去の様々な観察研究で共通して言われていることは、 ①同時性転移(大腸癌が見つかった時点で肝転移も存在している場合)、②転移個数が多いもの、③肝転移のサイズが大きいものは術後再発が多く、予後が悪い傾向にあるという点です。我々が実際の臨床で重視しているのもこれらの因子です。中でも「転移巣の数」は切除後の再発や予後に非常に強く関わる因子であり、我々の施設でも4個以上の転移巣をそのまま手術することはほとんどありません。多発転移の症例でも切除の効果をどのように引き出し、治癒を目指すかという戦略を解説し始めると本が一冊書けてしまいますので本書では専門的な部分は割愛しますが、現在のStage IV大腸癌の治療の基本は、「集学的治療」により進行症例でもなるべく切除による根治の可能性を探るという点にあります。ですから肝転移があると診断されても決して悲観すべきものではなく、まずは状況を見極め、どのような戦略で治療を開始するかがその後の運命を決めます。初診の段階ではその先は分かりません。Stage IVと聞くともう治らないと考える方が多いと思いますが、私個人の執刀症例だけでみても大腸癌肝転移切除例の5年生存率は60%を超えています。