2015年のデータを用いた疫学研究(1)において、日本人の男性のがんの43.4%、女性のがんの25.3%は、喫煙、飲酒、食生活、身体活動、過体重といった生活習慣、もしくは感染症が関与していたと推定されています。特に喫煙は肺がん、食道がん、膵臓がん、胃がん、大腸がん、膀胱がん、乳がんなどさまざまながんとの関連が言われており、たばこを吸う人は吸わない人に比べてがんに罹患するリスクが約1.5倍になるとされています。過剰な飲酒は食道がん、大腸がん、肝臓がんなどとの関連が証明されていますし、肥満は食道がん、膵臓がん、肝臓がん、大腸がん、乳がん、子宮体がん、腎臓がんなどのリスクを上げることが知られています。がんになるかどうかは確率の問題でありその予防は困難ですが、このように少なからず生活習慣の関与があることが分かってきています。
がんの原因として生活習慣と並び重要なのが感染症です。日本人のがんの原因の約2割は感染症によるものとされています。よく知られたものとしては、B型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスの感染による肝臓がん、ヒトパピローマウイルス感染による子宮頸がん、ピロリ菌の感染による胃がんなどがあります。こうした感染症の診断がついた方は、がんの発生リスクの低減やがんの早期発見のため、感染症自体の治療や定期的ながんのスクリーニング検査が重要となります。
B型肝炎やC型肝炎は血液を介して感染し、かつては輸血や予防接種による感染が多く見られました。現在、輸血用の血液は肝炎ウイルスの有無に関して全例スクリーニングが行われていますし、かつての予防接種のように注射針を使いまわすということはありませんので基本的にはこうした医療行為による感染リスクはまずありません。肝炎ウイルスのうちB型肝炎は感染力が強く、母親がB型肝炎の場合、出産時に子供に感染する(垂直感染)という問題がありますが、これも現在では感染防止策をとることで感染リスクを大幅に低減させることができます。一方、感染症に関連するがんの予防策として現在最も効果が期待されているのはヒトパピローマウイルスワクチンです。子宮頸がんの96%はヒトパピローマウイルス感染によるものであり、これは性感染症です。ヒトパピローマウイルスワクチン(子宮頸がんワクチン)については副反応の問題などがメディアで大々的に取り上げられ、積極的な接種が進まなかった時期がありますが、副反応の程度や頻度と比較してがんの予防効果のメリットが大幅に上回るとの判断から、現在では厚生労働省から積極的な接種が推奨されています。
その他、がんの危険因子としてはがんの家族歴が挙げられます。頻度は少ないですががんになりやすい遺伝子をもった家系というのは存在しており、がん全体の5%-10%は遺伝的な要素によるものと考えられています。家族性大腸腺腫症、リンチ症候群、遺伝性乳癌・卵巣がん症候群などがよく知られています。また膵臓がんにも家族性膵癌といって膵癌が発生しやすい家系があることが知られており、膵臓がんの5%-10%がこれに相当するとされています。
文献
1. Inoue M, et al. Burden of cancer attributable to modifiable factors in Japan in 2015. Glob Health Med 2022; 4(1):26-36.