神経内分泌腫瘍(Neuroendocrine neoplasm: NEN)は、消化管や膵臓に発生する特殊な腫瘍で、悪性腫瘍と良性腫瘍の中間の性質をもつ腫瘍です。しばしば肝臓に転移を来たしますが、大腸癌についで肝転移の切除の意義があるとされているのは神経内分泌腫瘍の肝転移です。神経内分泌腫瘍には大腸癌のように劇的な効果のある薬剤は存在していませんが、外科的切除が可能なものについては大腸癌と同様、切除によって一定頻度で根治が得られることが知られています。
 肝臓などの遠隔臓器への転移が認められる神経内分泌腫瘍は切除可能な病変については切除を中心とした集学的治療を行うことがガイドラインで推奨されています。治療の対象となる神経内分泌腫瘍の多くは成長が遅く、原発巣切除から10年以上を経て初めて肝転移を来たしてくることもありますので、神経内分泌腫瘍の切除を行った方は長期にわたるフォローアップが望ましいと思われます。
 神経内分泌腫瘍は原発巣よりも先に肝転移の方が見つかり診断に至ることもあります。肝臓そのものに発生する神経内分泌腫瘍もないわけではありませんが極めて稀であり、ほとんどは膵臓や消化管に原発巣が見つかります。神経内分泌腫瘍はその名の通り、ホルモン分泌を行うポテンシャルをもった細胞に由来する腫瘍であり、胃酸分泌を更新するガストリンを分泌するガストリノーマ、血糖を下げるインスリンを分泌するインスリノーマ、血糖を上げるグルカゴンを分泌するグルカゴノーマなどいくつかのホルモン産生腫瘍が知られています。神経内分泌腫瘍のほとんどはホルモンを産生していない非機能性神経内分泌腫瘍ですが、中にはこのように過剰なホルモン分泌から種々の症状を来たし、その精査の過程で発見に至るものが存在しています。ホルモン産生を行う神経内分泌腫瘍は切除や化学療法など、治療によって腫瘍を減量することができなければ症状の改善は見込めません。

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