胆嚢癌は地域的な偏りがあり、チリ、ボリビア、韓国、ラオス、日本が最もその発生頻度の高い国々です。胆嚢癌はどのような人に起こりやすいかということは多くの疫学研究が行われてきましたが、明確な病因のはっきりしないケースがほとんどであり、予防の考え方が難しい癌の一つです。文献的には高齢、女性、胆嚢癌の家族歴、胆石症の併存、肥満、喫煙、多産、経口避妊薬の接種、赤トウガラシの接種などが危険因子と言われていますが、これらが当てはまるからと言って胆道癌のリスクが劇的に高まるというわけではありません。
胆嚢癌は相当進行しないと症状が出ませんので、多くの場合は検診の超音波検査で胆嚢壁の不整形の肥厚として見つかるか、胆石症や胆嚢ポリープなどに対して胆嚢摘出術が行なわれた際に偶然病理検査で見つかるかというパターンが多いのが現状です。胆嚢は壁が薄く、早期癌だと思っても病理所見では意外と深く進展していて進行癌だったということがよくあります。ですから肝細胞癌のようにリスクのありそうな集団を見つけて慎重にフォローアップするというよりは、早期発見・早期治療をめざす方が現実的な疾患です。人間ドックや検診で定期的に超音波検査を受けることは胆嚢癌のスクリーニングには有用と考えられます、
胆嚢癌や胆管癌に関しては、癌になっていなくても予防的に胆嚢や胆管の切除を行う必要がある疾患が一つだけあります。「膵・胆管合流異常症」という疾患です。胆汁の通り道である胆管と膵液の通り道である主膵管は最終的には十二指腸乳頭部という部分で十二指腸に開口しています。十二指腸乳頭は「括約筋」でできており、筋肉が収縮することで胆管や主膵管の開口部がきゅっと締まり、それらの開口が調節されています。胆管と主膵管はこの括約筋によって個別に開口部が締まるため、例えば胆汁が膵管内に入ったり、膵液が胆管内に入ったりということは通常は起こりません。しかし、まれに生まれつき胆管と膵癌が十二指腸乳頭に達する前に膵臓の中で合流してしまっている人がいます。これを膵・胆管合流異常症といいます。膵・胆管合流異常症の方の場合、相対的に圧力が高い主膵管内の膵液が胆管内を逆流してしまいますので、慢性的に胆管内の胆汁に活性化した膵液が混じっており、胆管や胆嚢の内腔を覆う上皮細胞が長い年月を経て前がん病変に変化してしまいます。この疾患を放置した場合いずれ胆管癌や胆嚢癌を生じる可能性が高いため、膵・胆管合流異常症が発見された場合はその時点で予防的に胆嚢や胆管の切除を行う必要があり、その後も癌の発生の有無を慎重にフォローしていく必要があります。