がんの世界ではその進行度を病期(ステージ)として大まかに分類します。国際的に主に使用されているのは、国際対がん連合(UICC)/米国がん合同委員会(AJCC)によるTNM分類です。TNMとはT(tumor、腫瘍本体の進行度)、N(node、リンパ節転移の有無と程度)、M(metastasis、遠隔転移の有無と程度)の3点からがんの進行度を臓器別に定義するものです。通常、T、N、Mの組み合わせからステージI~IVの4段階の病期の分類を行います。大まかなイメージとして、ステージIがいわゆる早期がんに相当するもの。ステージIVは根治が困難な進行癌に相当するものになります。UICC/AJCCのTNM分類はこのように「世界共通の言語」として純粋にがんの進行度を定義するものです。
 一方、本邦では、UICC/AJCCのTNM分類ではなく、各学会が作成する「がん取扱い規約」で定められた独自の分類法が用いられています。がん取扱い規約による分類もTNM分類と同様、T、N、Mの3点から進行度を分類しますが、さらに細かい規定があり、腫瘍の性質をより詳細に分類するとともに、治療法の選択にも役立てようという目的があります。がん取扱い規約においても、がんの病期はステージIからIVの4段階で定められていますが、多くの臓器においてUICC/AJCC分類とは基準が異なっています(表2)。
 がんのステージに関して一つ知っておいてほしいことは、「ステージIV=末期がん」ではないということです。ステージI~III以外のがんはすべてステージIVに分類されますので、その中には様々な進行度のものが含まれます。ステージIVだから必ずしも治癒不能、予後不良というわけではなく、大腸癌の肝転移や肺転移のようにステージIVでも根治が期待できるケースが一定数存在しています。がんの病期(ステージ)とは、あくまで「がんの進行度」を表現する言葉に過ぎず、治療できる・できない、根治が目指せる・目指せない、を定義するものではありません。ですからステージIVのがんだからと言って必ずしもその先を悲観すべきものではないのです。現行の肝細胞癌のUICC/AJCCステージ分類を作った私自身がここに明言します。

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