前がん病変とはがんの発生母地となりうる良性病変のことを指します。膵臓がんの前がん病変としては、前述の膵管内乳頭粘液腫瘍(IPMN)が重要です。IPMNは比較的よく目にする疾患で、検診やCT、MRIなどで膵のう胞と診断されるものの中にはこの疾患が含まれています。主膵管に生じるもの(主膵管型)と、その枝に生じるもの(分枝型)、その混合型の3つのパターンに分けられ、分枝型の比較的小さいものは経過観察となりますが、分枝型のうち直径3cmを超えて増大傾向にあるもの、のう胞内にポリープのような隆起性病変がみられるもの、主膵管径の太い主膵管型などは癌化する可能性が高いため、切除を検討します。IPMNが癌化したものは、膵管内乳頭粘液癌(IPMC)というタイプのがんですが、IPMNが存在する膵臓には通常の膵癌(浸潤性膵管癌)も発生しやすいことが知られています。いずれも癌が発生すると進行は早いため、IPMNが認められている患者さんの場合は、所見から発がんリスクの高い状態あるいは早期膵癌を疑う所見が認められた段階で切除を検討します。
その他膵臓の良性腫瘍のうち、悪性化のリスクが高いために切除を行う腫瘍にはMCN(粘液嚢胞性腫瘍)というものがあります。これは女性に多くIPMNより頻度は低いですが、悪性化が多くみられるため診断がついた時点で切除を検討します。また、若年女性にみられるSPN(充実性偽乳頭状腫瘍)も低悪性度の腫瘍ですが、まれに転移をきたすことがあるため診断がついた時点での切除が進められています。IPMN、MCN、SPNの切除は癌化していない段階での切除がほとんどですので、腹腔鏡やロボット支援下切除など低侵襲手術の良い適応となります。