可能です。がんの治療の中には妊孕性(生殖機能)に影響を及ぼす可能性があるものもありますが、卵子を凍結しておくなど、将来のライフステージのために治療の前にできることはあります。がんだから先のことを全て諦める必要はありません。妊娠・出産に関しては、どのくらい経過したらという明確な基準はありません。がんを手術して5年経ったら一応治癒と判断しますので、5年という先生が多いかもしれません。しかし、人生の考え方は人それぞれですから、実際は我々もできる範囲でサポートをします。
 妊娠・出産ががんの進行や再発に影響を与えることはありません。ただし、X線を使用するような検査やがんに対する治療が妊娠初期に悪影響を及ぼす可能性がありますので、超音波のみでのフォローに切り替えたり、内服薬に問題がないかをチェックしたりといった工夫は必要となります。再発がないかのフォローアップの方法に不利な部分が出てきますので、①再発が起こりやすい期間を十分過ぎている、②根治の可能性が高いなどといった確証が、妊娠・出産を許可する一つ鍵とはなります。
 本人の許可を得て少し触れますが、私がまだ外科医5年目だったころ、30代前半で十二指腸乳頭部癌と診断され、膵頭十二指腸切除術を受けられた患者さんがいました。手術をして2年ほどで結婚し、妊娠・出産の話題になりました。彼女の場合、切除時のステージがstage I~II相当で脈管侵襲はなく、術後2年間無再発で経過しており、経験的に再発リスク期間を過ぎ治癒の可能性が高いと判断できたことから妊娠を許可しました。その後双子を出産しています。術後7年の時点で残膵に膵癌が認められ、残膵全摘をしていますがそこから10年間無再発で経過し、現在もお元気にされています。
 通常、がんのフォローアップは5年間ですが、膵癌を発症したときにすぐに適切な治療に移行できたのは、何かあれば病院に連絡するようにという主治医と患者のつながりを切らさずにもっていたためです。人の人生に責任を持つということはそういうことだと思いますし、特に若年者のがんの場合はその後に様々なライフステージがあることを考え、長めのフォローアップの体制が望まれます。超音波でがんの再発の有無をチェックしながら、出産間際まで一緒にエコーでベビーの成長を確認できたことは、医師として良い思い出です。

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