これは場合によります。地元の病院で診断をしてもらって、その後紹介という形で東京の病院へ移った場合は病診連携という形で診療提携がスムーズにいくと思いますが、初め東京の病院にかかっていたものを、手術をしたらあとはそちらでフォローしてくれと地元の病院に紹介することは通常できません。転居などで通えなくなるなどやむを得ない事情があれば別ですが、我々も診療経過に責任を持っていますので、手術だけしてそのあとは知りませんなどという無責任なことはできません。
がんの治療は自身の人生や命に関わることですから、有名な病院で見てほしい、名医とよばれるお医者さんに執刀してほしい、ベストな治療を受けたいと思うのは自然ですし、自分ががんになった場合もそう思うかもしれません。しかし、がんの治療は治るとしても長丁場です。手術をしたら終わりではありません。定期的に採血や画像検査を行って再発していないかのチェックをしたり、補助療法として術後に抗がん剤を使用する場合もあります。治療を受ける施設は、アクセスの良さ、緊急時のかかりやすさ、連絡の取りやすさ、通院の頻度などから総合的に判断する必要があります。
がん専門病院にかかって一度の治療で終了ということはむしろ少なく、副作用の出やすい治療を追加で行ったり、術後の晩期合併症のために病院を定期的に受診する必要がでてくる場合もあります。フォローアップも含め何年もかかる治療を一連として考えた場合、自宅から遠方の病院でそれをすべてこなすのは難しい場合があります。したがって、何かあったときにすぐにかかれる、「かかりつけ医」が近くにいるかどうかは治療をうまく進めていくために重要となってきます。
私のところにも国内外から非常に多くの患者さんがいらっしゃいますが、北海道や沖縄の方が自宅で具合が悪くなってしまった場合、東京まで受診してもらうわけにはいきません。そのため基本的には地元に主治医を持っていただき、がんの治療は主治医の先生を中心として進め、必要な場合にこちらも連携協力する、という体制で診療を進めさせていただいています。場合によっては私が先方の病院へ手術をしにいくこともあります。
どの医療機関へもフリーアクセスできるのが日本の医療制度の良いところですが、初めから大都市のがん専門病院にかかってしまい、地元の病院とのつながりがない場合は、自宅で何かあったときに(病歴もデータも何もないため)適切に対応してもらえないというリスクが発生します。医療機関にはそれぞれ役割があり、大病院にかかればすべて完結するわけではありません。受診の順序を間違えてしまうとかえって不利益を被る可能性があります。特にがん専門病院は臓器別・疾患別に担当や専門医が異なりますので、有名な先生のところに行ったからと言って、検査から手術まですべてその先生にやってもらえるわけでもありませんし、外科にかかっても内科的治療のほうが妥当と判断されてそちらに回されるケースもあります。きちんとした診断や治療方針もなしに紹介状なしでいきなり専門病院にかかることを我々がお勧めしない理由はそうしたところにあります。