いわゆる「免疫力」という漠然としたものを高める方法は医療には存在しません。がんを抑える生活習慣も食事もありません。例えばがんのリスクファクターの疫学研究において、喫煙、飲酒、果物の摂取量などは発がんリスクと関連があることが言われていますが、リスクの上昇といっても健康な方と比較して「一生涯で」1.2倍とか1.6倍とか非常に小さい差異の話です。「10万人当たり5000人かかる疾患が、飲酒によって6000人に増える」と聞けばすごく増える気がしますが、「5%が6%になる」という言い方ならばどうでしょうか?これらは全く同じことを言っていますが、表現の仕方で受ける印象が全然違うはずです。メディアのからくりというのはこういう部分にあります。
 書店の医療・健康のコーナーに行くと、必ず「がんが消えていく○○」、「がんにならない〇〇」といった本が沢山ならんでいます。しかし、これらが推奨しているような特殊な生活習慣や食生活を数か月、数年単位で実施したところで、がんのリスクを「大幅に」下げられることなどないということに気づくと思います。無理な生活習慣や食事の制限は身体にとってマイナスに働きます。腫瘍の制御に重要な免疫の状態は、栄養状態と密接な関連がありますから、がんに悪いと聞いて極端な糖質制限をしたりすることも逆効果です。病院できちんと栄養指導を受け、身体に負担をかけないバランスの良い食生活を行うことの方がはるかに重要です。病気のことは我々専門家が悩みますので、無理に一人で頑張ろうとする必要はありません。がんだからといって生活に制限を設けたり、患者らしくする必要などないのです。暴飲暴食を避け、体調管理をしながら普通の生活で全く問題ありません。

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