がんの進行に伴って生じる様々な症状の緩和を企図することを「緩和医療」と言います。これはどちらかというと積極的な医療の介入であり、肉体的・精神的に苦痛を緩和することを目的としているものです。緩和医療=末期がんのようなイメージがあるかと思いますがそうではありません。がんと診断された時点で緩和医療の介入があってもよいのです。がんと言われたら精神的に苦しい日もあると思います。そのケアも含めて緩和医療です。緩和医療とは「何もしない」というものではなく、苦痛の緩和を行う立派な医療行為であり、これはある程度の予後の延長に寄与します。
 一方、「ホスピス」は緩和医療と一部重なる部分もありますが、これは死が迫った患者さんとその家族の苦痛を最小限にすることを目的としたケアのプログラムのことを指します。身体的・精神的・社会的な視点からサポートを考えるものであり、緩和医療もここに関わりますが、一般的に終末期のケアを主眼としたものです。
 緩和医療とはすべてのステージのがん患者さんを対象としたものであり、私は若いころからそれを日々の診療に取り入れたいと思ってやってきました。症状や苦痛に薬を使っていればよいだけではなく、精神的なサポートも医師に求められる大切な資質です。話して安心できる主治医がいるだけでも治療の苦痛は半減するでしょう。そういう主治医に出会えるかどうか、そういう主治医と信頼関係を結べるかどうかも患者力だと私は思います。

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