誰でもそうです。平気な人などいません。がんと診断を受けると、いろいろな不安にも襲われますし、時間的な制約も出てきます。準備ができている人などいません。しかし、がんが治る・治らないにかかわらず、できることは沢山あります。現実を受け入れ、がんとどう向き合い、自分の人生で何を大切にするのか、それを考え始めなくてはいけません。
 私の家系はがん家系です。2親等以内に胃癌が3人、肺癌が1人、前立腺癌が1人います。祖母は20代で、父親も私の大学受験の1週間前に胃癌と診断されました。私は胃癌にはなっていませんが大腸ポリープは切除しました。医者の不養生で検診を受けていなければ50歳前後で横行結腸癌になっていた可能性が高いと思います。
 家族の立場で自分の家族ががんになった時のことを思い返すと、あまり何もできなかったなと思います。父親の時は大学受験の直前でしたし、祖父の時は開腹時既に超進行癌で、本人は病状を知らないままがん性腹膜炎で亡くなりました。自分の家族には何もできなかったから、自分の患者さんにはそうあってほしくない、なるべく同じような目に合う人々がいなくなって欲しいというのが、私がこの仕事を続けるモチベーションでもあります。
 一つ私からできるアドバイスとして、がんと診断されて、その後を考えるときに最も大切なことは、専門家を味方につけることです。そういう意味で「主治医を見つけること」という話をよくします。今後の見通し、今後起こりうること、運命を変えるためにやらなくてはいけないステップ、選ぶべき選択肢、これはがんのプロフェッショナルでなくては分かりません。自分で情報を集めようとしても素人には限界があります。特に日本の場合は根拠のない治療やイカサマ医療に導かれるリスクが残念ながら沢山ありますので、リテラシーを補う上で、専門家を味方につけるのが王道であり正解だと私は思います。
 先にあるもの、先に起こりうることが見えなければ、先を考えることはやはり難しいですから、主治医と相談をし、アドバイスを受けながら、時間を取って考えていけばよいと思います。がんはすぐに死ぬ病気ではありません。時間が残されている疾患です。ですからまだ人生を生きることはできます。それをどのように生きたいのか。ご自身のために、ご自身の人生の時間を大切にしてほしいと思います。

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