食べ物の消化に関連する臓器である消化器は、大きく分けて上部消化管(食道・胃)、肝胆膵(肝臓・胆道・膵臓)、下部消化管(小腸・大腸)の3つに分けられ、それぞれ身体における機能や解剖学的な特徴、がんが発生した場合の治療に求められる知識や技術も全く異なりますので、我々消化器外科医の専門もこのような分け方をします。
 肝臓は右の肋骨に囲まれるように存在する大きな臓器で、身体の右側からみぞおちの下まで張り出しており1.2kgほどの重量があります(図3)。肝臓は生体の代謝活動(合成・解毒)の中枢であり、人間は肝臓なしに生きていくことはできません。

図3. 肝臓・膵臓の位置

 肝臓では胆汁という消化液を作っていますが、それを十二指腸へ運ぶルートが胆道です。肝臓と十二指腸をつなぐ「胆管」の途中に「胆のう」とよばれる袋状の組織がついています(図4)。胆汁は1日500mlほど産生され食物中の脂質の分解や吸収に関与していますが、胆のうはそのうちの一部をためておいて、胃で消化された食物が十二指腸へ入ってくると収縮し、食物と胆汁がうまく混ざる仕組みになっています。胆のう内に溜まっている胆汁が結晶化し、石になったものがいわゆる「胆石」であり、胆のうの中に石ができてしまった状態のことを胆のう結石症と言います。痛みなどの症状が出る場合は手術を行います。胆管・胆のうからなる胆道は、肝臓や膵臓のように代謝活動を行っておらず、胆汁を流しているだけの脈管構造ですので切除しても生きていくことは可能です。

図4.肝臓、胆道(胆嚢・胆管)、膵臓の配置

 一方、膵臓は胃の裏側に位置する細長い臓器で(図3)、先端が膨らんでいるため「頭部」、そこから左側へ「体部」、「尾部」という部分に分けられます。膵臓の頭部は図4のように十二指腸に取り囲まれており、体部は胃の裏側で背骨を横切り、左の背中側の尾部へつながっています。膵臓の機能は大きく「消化」・「内分泌」の2つに分けられ、タンパク質の分解に関与する「膵液」という非常に強力な消化液を産生するとともに、インスリン、グルカゴンなど血糖の調節に関わるホルモンを分泌しています。膵臓を全部切除してしまった場合、消化機能は消化剤の内服で補うことが可能ですが、血糖を下げるホルモンであるインスリンは膵臓以外では作ることができないため、インスリン注射で補う必要が出てきます。

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