内視鏡外科治療に関する私の考え方と実績について

近年、肝臓外科分野においても腹腔鏡下の手術が広く行われるようになってきていますが、胃や大腸のような消化管とは異なり、肝臓は実質臓器であること、重量があり、周囲に大血管が多く、臓器自体が血管の塊であることから内視鏡外科治療の中でも難度の高い手術に分類されます。

肝切除術の問題点の1つに、開腹切除では腹部を大きく切開する必要があるため、それが術後の疼痛や回復の妨げとなることが挙げられます。腹腔鏡治療のメリットはそうした腹壁の破壊を最小限にすることで、痛みが少なく、回復が早い点にあり、肝臓の表面にある腫瘍や、左側の肝臓が薄い領域(外側区域)にある腫瘍に対する腹腔鏡下切除は腹腔鏡下肝切除術の中でも難易度がそこまで高くないため、多くの施設で行われています。我々のチームにおいても腹腔鏡で安全かつ根治的に治療が可能な症例においては腹腔鏡下肝切除術を基本としています。

一方、亜区域・区域・葉切除といった複雑あるいは大量肝切除を要するケースにおいて、腹腔鏡下切除が可能な施設は限られます。我々の施設もそうした高難度の腹腔鏡下肝切除術を施行する施設要件を満たしており、症例に応じて腹腔鏡下で治療を行っておりますが、肝臓外科手術における優先度は、①安全性、②根治性、③低侵襲性です。③はクリアできても①②が担保できなければ治療としては成り立ちません。私のチームでは多発腫瘍、巨大腫瘍、脈管侵襲を伴う腫瘍など腹腔鏡では治療が困難なケースを多く扱っていることもあり、亜区域切除以上の複雑な肝切除術は多くのケースでこれまで完全腹腔鏡下ではなく、腹腔鏡補助下もしくは用手補助下による切除を選択してきましたが、診療体制の整備、スタッフの育成を経て、現在7割強の症例を完全腹腔鏡下またはロボット支援下で行っております。

また、我々の得意とする治療として、再切除症例に対する腹腔鏡下アプローチが挙げられます。肝切除歴のある症例に対する再肝切除術では肝臓周囲が癒着しており、そもそも腹腔鏡下切除が困難であるため、従来開腹手術が多く選択されてきました。しかしそうした症例に対しても腹腔内深部の狭いスペースは開腹手術よりも腹腔鏡下の方がむしろ手術操作が安全に行える場合があり、可能な限り腹腔鏡下での切除の可能性を追求しています。

個人の執刀症例の統計では2018年までは約10%前後が腹腔鏡(補助)下切除であったものの、2019年は48.3%、2020年は75.0%、2021年は75.4%と腹腔鏡下切除割合は年々伸びており、2025年現在、年間の肝切除件数約200件のうち、130-140件が腹腔鏡を用いた切除となっています。