Time to interventional failure

一年のうち夜中の仕事が少しマシになるのは10月と2月だけである。外の仕事が減ることはないのでなかなか日中に病棟を回診している余裕もない日が続くが、夜中は少し時間に余裕が出てくるので解剖理論の研究を進めたり、教育用の手術動画の編集をしたりで日々が過ぎていく。年末から年始にかけてうちのチームからsubmitした論文が5本ほどあるので、それが返ってくるまでは束の間の休息というところだ。時間が余ったら寝ればよいのだが、何かしていないともったい気がどうしてもしてしまうので、最近は余った時間でくだらないつぶやきを期間限定で載せている。

物を書くという作業は私のストレス解消の一つとしてやっている部分もあるので、ブログの記事は気が向いたときに不定期で書いて、短いと数日以内、長くても一週間以内に消しているものが多い。私が何か書こうというきっかけは、良いことがあったときというよりは、長く診てきた患者さんを失った時、理不尽な事象、日常茶飯事の下らないいざこざなど、ストレスを感じている時に頭を整理するためという意味合いが実は強い。なのでここはメインページではないのだが、なぜか新規投稿を載せた瞬間的にアクセスが急上昇するという謎の現象が起こっている。

このサイトの本来の目的は、自分のところで診療を希望する患者さん向け、医療にかかる際にその取っ掛かりとなる情報収集に役立ててもらうためというところにあるので、情報の信憑性を理解してもらうために私自身の情報も載せてはいるが、宣伝を目的としているわけではない。我々の施設からの新規情報の発信や科の宣伝については、こちらではなく肝胆膵外科の公式サイトがその役割を担っている。

ブログはもともと一般向けで一応作ってみたわけだが、医療関係者、特に若い医者が多数来ているようなので、その扱いや内容については何とも悩ましい状況でやってきた。あまり理想ばかり呟いて進藤劇場になってしまうと言葉の重みが薄まりそうで嫌なので、自分の中では無理して更新しなくてもと思うところもあるのだが、自分の患者さん達はよくここを見に来ていてそれが病気と闘う動機となったり、主治医である私の考え方が心の支えになったりという部分はあるようなので、ブログは今後も継続する。

5月に開催されるILTSからディベートセッションでの講演依頼が来た。しかし現地(イスタンブール)には行けないのですごく残念である。旧知の友でもあるイスタンブール大学の教授も残念と言っていた。一体いつになったら海外出張が解禁されるのか。コロナもワクチンや治療薬が出てきているわけで、そろそろインフルエンザと同じ扱いでよいのではないかと個人的には思う。日本人は集団と違う考えを持つこと、集団に叩かれることを極度に嫌うので、こんなことをやっていては経済活動も、学術活動も欧米に大きく引き離されるだろうなと非常に懸念する。

ILTSからは切除不能大腸癌肝転移に対してsurgical oncologistの立場からの講演依頼ということであるが、ステージIVという非常にヘテロな母集団をどう扱い、どう臨床成績を上げるのか、外科医の立場ではどういう視点が重要なのかという部分は、腫瘍学に関する深い洞察と経験に大きく影響される部分であり、我々のように移植を考えずに切除でいけるとこまで戦うという考え方は世界的には一般的ではない。世界中の外科医が腫瘍内科医に洗脳されている部分をどうクリアカットに切り刻んでいくか、話すとしても少し戦略を考えないといけない。

私の信念でもあり、患者さんに最も知ってほしいと思うことは、冒頭にもある ”Fate is Unpredictable” という言葉だ。
初見でその人の運命などわからない。我々の仕事は思い込みで予後を勝手に振り分けてその人にとって本当に意義があるのかわからない診療ガイドラインやアルゴリズムというベルトコンベアに乗せてやることではない。大腸癌肝転移や肝細胞癌は術後の再発までの時間が予後に直結しない癌種である。手術のみが最善の治療ではないし、治らなければ手術の意味がないという考え方も大きな誤りである。最終的に元気でいられる時間をいかにして最大限に延ばすのか、化学療法を避けられる期間をどうやって延ばすのか、その時その時のベイズ推定に従って最善の選択を行い、できれば治したいという考え方を持つことができるかどうか?

我々が対象とする肝の悪性腫瘍の領域ではTime-to-interventional failure (治療介入成功期間) という考え方が重要である。勝手に切除不能と決めつけていないか、切除の意味がないと決めつけていないか、特定の治療を治療選択肢から除外する明確な根拠を持っているか、それは世界に対する大きな問いかけである。
さて、どういう戦略でいこうか。

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