Q30のように根治を目指した進行癌の手術を行った場合、術後に抗がん剤を投与しておくべきかどうかというのは常に議論になります。大腸癌肝転移の術後には追加の化学療法治療が多く行われますが、それに関するエビデンスはまだ不十分です。術後化学療法を行ったほうがよいかどうかに関する臨床研究はいくつか存在しており、術後補助化学療法が再発率の低減に寄与しているという結果が報告されていますが、最終的な生存期間の改善につながっているかどうかは証明されていません。しかし、大腸癌が見つかった時点ですでに肝転移も存在している「同時性転移」もしくは原発巣切除後から1年以内の早期の転移の症例では術後治療を行っておいたほうが、再発が起こるまでの期間を延長させることができますので、基本的には術後治療が加えられていることが多いと思われます。
大腸癌肝転移の「術前治療」は切除不能大腸癌と同様に2剤もしくは3剤の殺細胞性抗がん剤に分子標的薬を併用した最も効果がある治療を選択しますが、「術後治療」に関しては内服でマイルドな抗がん剤を使用するか、術前治療で用いたレジメンから分子標的薬を抜いたレジメンで治療するのが一般的です。どのようなケースにどのような薬剤を用いるべきかに関しては確固たるエビデンスが存在しませんので難しい部分ですが、経口の抗がん剤を使用しても点滴の強い抗がん剤を使用しても無再発生存率に違いはないことを示唆するデータを我々の施設では持っていますので、私のグループでは原発巣切除から1年未満の症例については肝転移の切除後はマイルドな経口の抗がん剤を使用することを基本としています。
遠隔転移が存在しないStage IIやStage IIIの大腸癌の術後には点滴の強い抗がん剤による術後化学療法を行うことが適切とされていますが、Stage IVだから強い抗がん剤が必要というのは切除後の症例に対しては正しい考え方ではありません。Stage IIやIIIの大腸癌よりもStage IVの方がマイルドな抗がん剤でよいというのは逆説的にも思えるかもしれません。しかし、Stage IIやStage IIIの癌に対する術後補助療法というのは、実は見えていない遠隔転移が存在している(実はStage IVかもしれない)と考えて行われる治療であるのに対して、Stage IVの術後に行われる化学療法は、癌の存在範囲を特定し、それが根治的に取れた(もうがんが存在していない可能性が高い)症例に対して行われる治療ですからそもそもがん組織が遺残している可能性が異なっているわけです。また術後補助療法を行っても一定の割合で再発がみられることから、術後補助療法は癌の根治というよりは再発までの期間を延ばすという効果が主体であると考えられる点、さらにオキサリプラチンやイリノテカンという薬剤は長期間使用すると肝組織に障害をきたしますので、再発時の再切除に備えてなるべく肝機能を温存しておくという観点から考えても、転移性肝癌の術後に関してはあまり強い治療は必要ないと我々は考えています。